コーシー・シュワルツの不等式|思考力を鍛える数学

相加相乗平均の不等式の次にメジャーな不等式であるコーシー・シュワルツの不等式の証明と典型的な例題を紹介します.

コーシー・シュワルツの不等式: 実数 $a_1,a_2,\cdots,a_n, b_1,b_2,\cdots,b_n$ について次の不等式が成り立つ.
$$ (a_1b_1+a_2b_2+\cdots+a_nb_n)^2 \le (a_1^2+a_2^2+\cdots+a_n^2)(b_1^2+b_2^2+\cdots+b_n^2)$$ 等号成立条件はある実数 $t$ に対して, $$a_1t-b_1=a_2t-b_2=\cdots=a_nt-b_n=0$$ となることである.

$a_1,a_2,\cdots,a_n,b_1,b_2,\cdots,b_n$ は実数であれば,正でも負でも $0$ でもなんでもよいです.

等号成立条件が少々わかりにくいと思います.もっとわかりやすくいえば,$a_1,a_2,\cdots,a_n$ と $b_1,b_2,\cdots,b_n$ の比が等しいとき,すなわち, $$\frac{a_1}{b_1}=\frac{a_2}{b_2}=\cdots=\frac{a_n}{b_n}$$ が成り立つとき,等号が成立するということです.ただし,$b_1,b_2,\cdots,b_n$ のいずれかが $0$ である可能性もあるので,その場合も考慮に入れて厳密に述べるためには上のような言い回しになります.

手始めに,$n=2,3$ の場合について,その証明を考えてみましょう.

$n=2$ のとき

不等式は,$(a_1b_1+a_2b_2)^2 \le (a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2)$ となります.これを示すには,単に (右辺)ー(左辺) を考えればよく, $$(a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2)-(a_1b_1+a_2b_2)^2$$ $$=(a_1^2b_1^2+a_1^2b_2^2+a_2^2b_1^2+a_2^2b_2^2)-(a_1^2b_1^2+2a_1a_2b_1b_2+a_2^2b_2^2)$$ $$=a_1^2b_2^2-2a_1a_2b_1b_2+a_2^2b_1^2$$ $$=(a_1b_2-a_2b_1)^2 \ge 0$$ とすれば示せます.

$n=3$ のとき

不等式は,$(a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3)^2 \le (a_1^2+a_2^2+a_3^2)(b_1^2+b_2^2+b_3^2)$ となります.おそらく,この形のコーシー・シュワルツの不等式を使用することが最も多いと思います.この場合も $n=2$ の場合と同様に,(右辺)ー(左辺) を考えれば示すことができます.
$$(a_1^2+a_2^2+a_3^2)(b_1^2+b_2^2+b_3^2)-(a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3)^2 $$ $$=a_1^2(b_2^2+b_3^2)+a_2^2(b_1^2+b_3^2)+a_3^2(b_1^2+b_2^2)-2(a_1a_2b_1b_2+a_2a_3b_2b_3+a_3a_1b_3b_1)$$ $$=(a_1b_2-a_2b_1)^2+(a_2b_3-a_3b_2)^2+(a_1b_3-a_3b_1)^2 \ge 0$$

コーシーシュワルツの不等式を用いて典型的な例題を解いてみましょう!

特に最大値や最小値を求める問題で使えることが多いです.

 $x,y$ を実数とする.$x^2+y^2=1$ のとき,$x+3y$ の最大値を求めよ.

コーシーシュワルツの不等式より, $$(x+3y)^2 \le (x^2+y^2)(1^2+3^2)=10$$ したがって,$x+3y \le \sqrt{10}$ である.等号は $\frac{y}{x}=3$ のとき,すなわち $x=\frac{\sqrt{10}}{10},y=\frac{3\sqrt{10}}{10}$ のとき成立する.したがって,最大値は $\sqrt{10}$

 $a,b,c$ を正の実数とするとき,次の不等式を示せ. $$abc(a+b+c) \le a^3b+b^3c+c^3a$$

両辺 $abc$ で割ると,示すべき式は $$(a+b+c) \le \left(\frac{a^2}{c}+\frac{b^2}{a}+\frac{c^2}{b} \right)$$ となる.コーシーシュワルツの不等式より, $$\left(\frac{a}{\sqrt{c}}\sqrt{c}+\frac{b}{\sqrt{a}}\sqrt{a}+\frac{c}{\sqrt{b}}\sqrt{b} \right)^2 \le \left(\frac{a^2}{c}+\frac{b^2}{a}+\frac{c^2}{b} \right)(a+b+c)$$ この両辺を $a+b+c$ で割れば,示すべき式が得られる.

 $n$ 個の実数 $x_1,x_2,\cdots,x_n$ が $x_1+x_2+\cdots+x_n=1$ を満たすとき,次の不等式を示せ. $$x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2 \ge \frac{1}{n}$$

コーシーシュワルツの不等式より, $$(x_1\cdot 1+x_2 \cdot 1+\cdots+x_n \cdot 1)^2 \le (x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2)n$$ これと,$x_1+x_2+\cdots+x_n=1$ より示される.

一般のコーシーシュワルツの不等式の証明は,初見の方は狐につままれたような気分になるかもしれません.非常にエレガントで唐突な方法で,その上中学校で習う程度の知識しか使いません.知らなければ思いつくことは難しいと思いますが,一見の価値があります.

証明: $t$ を実数とする.このとき $$(a_1t-b_1)^2+(a_2t-b_2)^2+\cdots+(a_nt-b_n)^2 \ge 0$$ が成り立つ.左辺を展開すると, $$(a_1^2+\cdots+a_n^2)t^2-2(a_1b_1+\cdots+a_nb_n)t+(b_1^2+\cdots+b_n^2) \ge 0$$ となる.左辺の式を $t$ についての $2$ 次式とみると,$(左辺) \ge 0 $ であることから,その判別式 $D$ は $0$ 以下でなければならない. したがって, $$\frac{D}{4}=(a_1b_1+\cdots+a_nb_n)^2-(a_1^2+\cdots+a_n^2)(b_1^2+\cdots+b_n^2) \le 0$$ ゆえに, $$ (a_1b_1+\cdots+a_nb_n)^2 \le (a_1^2+\cdots+a_n^2)(b_1^2+\cdots+b_n^2)$$ が成り立つ.

等号成立は最初の不等号が等号になるときである.すなわち, $$(a_1t-b_1)^2+(a_2t-b_2)^2+\cdots+(a_nt-b_n)^2 = 0$$ となるような $t$ を選んだときで,これは $$a_1t-b_1=a_2t-b_2=\cdots=a_nt-b_n=0$$ と同値である.したがって,等号成立条件は,ある実数 $t$ に対して, $$(a_1t-b_1)^2+(a_2t-b_2)^2+\cdots+(a_nt-b_n)^2 = 0$$ となることである.

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